2015年12月1日火曜日

第18回戦 追記特許攻防とパテントトロール

マイケルはパテントトロールに特許を売った金でまた戦いに挑んだ。
パテントトロールは、特許だけを保有している会社で多くの知財系弁護士を抱えている。売上は主に特許収入、トロールと言われる所以は大企業に対して特許侵害訴訟を起こして収入をえているからだ。
一方、マイケルのような個人発明家は自分で訴訟する費用が無い。だから、使わないならパテントトロールに売った方が役立つのだ。面白いのは、侵害されている特許ほど高値が付くシステムだ。
パテントトロールに特許売却で得た資金115万ドル。1億円以上の金だが、チップビジネスを始めるには充分とは言えない資金だ。
それでも、彼は挑んだ。
プライドなんだろうか。
トレーダーも同じだな。
知人のオプショントレーダーは全財産失ったあと、アメックスカードのキャッシングで三百万円引き出してまた億にした。
人間は何をして、どこで生きるのか。
生まれた時から、もしかしたら、決まっているのかもしれない

第18回戦 マイケルの決意



ズズズ。
深田はオレンジジュースをすする。
普段ならカフェでは熱いカフェラテを頂くのだが、外事警察で事件について喋りっぱなしだったので喉がカラカラだ。
特定秘密保護法が施行されなければ、日本の衛星情報なんてとてもじゃないけど守られない。(2014年春当時は施行前)
マイケルが台湾調査局に誘拐されそうと被害を相談しても、アメリカみたいに被害者を守るシステムは無いからFBIに守ってくれとか、得意のたらい回しの術で煙に巻かれた。
「日本って意外と安全じゃないんだな」
考えてみれば治安は良いけど、国民を守るとか、スパイが国民を危機に貶めているという観点は無い国だ。自衛隊が戦地に赴いても銃に弾を詰めて構わないかどうか国会で議論する始末だ。
総務省の予算17兆円に対して、防衛省は4兆円と四分の一なうえに支出はほぼ人件費で貧乏省だ。防衛省は野党によってとことん冷や飯食いをさせられてるのだ。
「ラファイエット事件で殺されたフランス人は東京で殺された。犯人は捕まっていない」
マイケルはサンドイッチを頬張りながら応える。ラファイエット事件では台仏の捜査員証人含めて総勢14人が殺され、事件はうやむやになった。
「殺されても犯人すら捕まらないの?」
「警察に被害届け出したら捜査してくれるのか?」
言われてみればそうだ。
昔、友達が強姦されて警察に被害届けを出したが、その後警察からは音沙汰なし。逗子でストーカーに殺されたのは、エリの友達だ。
シンガポールでストーカー被害に逢った時、電話番号で加害者を割り出して2時間以内に逮捕してもらったと金融機関の女友達が言っていたのとは雲泥の差だ。
「FBIに相談しようよ」
「2008年の夏。馬英九が陳水扁を逮捕させた日、俺は台湾系FBI捜査官に捜査が打ち切られたと伝えられた。青幇は政治に強い。そして、警察捜査は常に政治だ」
台仏中で巨額の賄賂と引き換えにラファイエット級フリゲート艦技術を中国解放軍へと売ったラファイエット事件の犯人を追った政治家は民進党の陳水扁元総統だけだ。
「FBIも…。もうなす術が無いね」
深田はため息を吐いた。
陳水扁は病床の身でありながら投獄されて、治療も受けられない苦しみから自殺未遂までした。馬英九が総統である限り、事件の捜査は再開されないどころかマイケルが台湾へ帰る日もこないだろう。
「深田、どうしてまた会社を始めたか分かるか?」
深田は首を傾げた。
「昔、台湾で公開企業の社長だった俺は充分な金があった。中国スパイに付きまとわれて、オフィスは襲撃され、400以上あった特許は米国最大の弁護士事務所に俺のサインを偽造されて失い、結果的に20億円近い借金を背負うことになった。五つあった家を売り、借金を全額返した頃にはホームレス寸前だった。FBIに相談した頃といえば、俺の技術を証明しようにも特許もなく、製品も破壊された後だった。台湾系捜査官が俺に放った言葉は、『マイケルさんの技術が本物だと証明するべきです』だった。偽物呼ばわりだ。ところが、自分が本物であることを証明する為に、またチップを開発しようにも金が無かった。チップの開発は金がかかり過ぎる。開発どころか、生活するだけで精一杯だった」
凄惨なシチュエーションだ。
自分だったら、たぶん絶望して自殺してるだろう。
「捜査が中断になってしばらくして、自宅に手紙が届いた。米国特許庁が、偽造サインで取り消された俺の米国特許数十を返還してくれのだ。特許史上、取消した特許が返還されたのは初めての事件だ。この特許をすぐさま売りに出した。すぐにパテント・トロールから連絡が来て、10特許で115万ドルの値段が付いた。おとなしく生きれば死ぬまで特許で生きていけることは確実だった」
「でも、そうはしなかったのね」
「俺はその金で元の会社のトップエンジニア2人を呼び戻して研究所を作った。金だけあって朽ち果てていくなら、俺は自分が本物であることを自分で証明する。それだけのことだ」
深田はハッとした。マイケルの技術が市場に出回ると困る人物がいる。
「マイケル、それだよ。マイケルの技術が市場で出回ると馬英九は困るんだよ。だから、藤井を使って製品化の妨害をしたんだ」
アルファアイティの藤井はマイケルから依頼された製品化用ソフトウェアをいつまで経っても作らなかった。その意図は、市場にマイケルの製品を出さない為だ。
瞬間、深田の携帯が鳴った。
「萌絵さん、大変です!」
エリの声が震えている。
「大変、大変って、なんなのよ」
既に大変過ぎることが連日起こっている。
「依頼していた基板設計の納品がなされませんでした」
「な、納品されなかった?」
「やられた、基板が無いと製品ができない。オフィスへ戻るぞ」
2人はカフェを飛び出し、オフィスへと急いだ。
深田の運命やいかに…
続く

2015年11月30日月曜日

第17回戦追記 台湾国民党と青幇の歴史



中国には無数の暴力団、幇が存在する。幇は日本で言うところのなんとか組みたいなもので、違うとすれば複数の幇に同時に所属する事ができるところだ。
中国共産党、江沢民時代までは上海幇と呼ばれる幇の構成員が強かったが今は習近平によって一掃されてしまっている。
有名どころで四海幇や竹連幇などもある。
四海幇、竹連幇は台湾青幇の配下の暴力団組織で、台湾裏社会を牛耳る暴力団『青幇』(チンパン)は数百年の歴史を持つ強固な幇だ。
語られている伝説では、青幇が最も栄えたのは上海疎開地時代、杜月生と黄金栄の時代だ。暴力団が一番儲かるのは戦争だ。麻薬、売春、武器の密売、そして諜報活動。
日本の上海侵攻が成功したのは、青幇が国民党の情報を日本軍に売ったからである。今でこそ、青幇は抗日英雄と語られているが実は彼らこそが売国奴なのだ。
青幇は決して日本軍のみを助けたのではない。彼らは日本軍を救い、共産党を救い、国民党にも協力した。
青幇が戦後絶滅したと語られているのは、国民党の情報を共産党に売ったことにより最終的に『同朋を売るのは許せない』と共産党にマシンガンで銃撃された事件があった為だ。
第二次世界大戦後、青幇は拠点を上海から香港に移動してそのまま消滅したと言われているが、実は違った。戦力の大半を失った国民党蒋介石に協力して、台湾を収めたのだ。
蒋介石は毛福梅との間に出来た息子蒋経国を嫌っていた。理由は自分が家に帰らず上海で女遊びしている間に出来たからだ。
蒋介石は蒋経国を暗殺しようと試みたが、蒋経国は暗殺を恐れてモスクワへ留学し共産主義を学んだ。元々、蒋経国は共産党だったのだが、国民党が力をつける程に共産党の監視下に置かれたので、敗戦した国民党に合流する。
しかし、蒋経国は青幇を嫌っていた。また、青幇による暗殺を恐れて距離を置いていたが、ある頃から台湾政治の実務に関わるようになる。蒋介石の孫によると、晩年の蒋介石は酷い認知症で政治どころでなかったため、長男の蒋経国が実務に携わる。モスクワで政治経済の教育を受けた蒋経国が台湾を成長に導いた。蒋経国は反蒋介石ではない事を証明するため、自分の身を守る為に蒋介石を英雄にし立てあげた。蒋介石万歳音頭はそこから始まって、万歳しなかったマイケルは11歳で政治思想犯として投獄されたという皮肉な運命だ。
蒋経国は青幇による台湾支配を嫌って、台湾人李登輝に政治を託すことを約束した直後に暗殺され、台湾政治は青幇下部組織で政治と経済を司る仁社に移行した。李登輝をしても、青幇には勝てなかった。
仁社
陳水扁は事実上抹殺されて、この物語は青幇下部組織仁社トップ馬英九に引き継がれていく。
続く

第16回戦追記 犯罪人引渡し条約と台湾




死刑制度のある日本と逃亡犯引渡し条約を結んでいる外国は少なく、意外だが米国と韓国しかない。
無論、表上は国家とは認められない台湾とそんな条約を日本は結ぶはずもないのだ。
今回、台湾調査局はマイケルを探して実力行使に出てきた。
ここでポイントになるのは、何故台湾当局は外務省経由で国際警察を通じて日本の警察に協力を要請せずに台湾調査局を送り込んできたのかという部分である。
彼らがそうできない理由、それはなんだったのだろうか。
深田は共謀犯になるのだろうか。
台湾最大の半導体メーカーWinnond とマイケルの関係はナゾだ。
深田の運命、本当にどうなっちゃうの?という感じです。

2015年11月29日日曜日

第16回戦 逃亡犯



「エリちゃん!」
月曜朝9時。
深田はオフィスに駆け込むなり、エリを呼んだ。呼ばなくても、エリとバイトのこけししかいないのだが。
「萌絵さん、どうしたんですか?」
「マイケルが裁判の日から、全く連絡が取れない」
「エエ!!本当ですか?」
「台湾調査局には捕まってないはずなんだけど…」
とは言うものの、深田は不安だった。
「そうだ、マイケルさんの部屋の鍵を預かってますから、一緒に部屋に行ってみましょうよ。何か分かるかもしれません」
エリはそう言って、引き出しから鍵を出した。
二人はガチャガチャとマイケルの部屋に押しかけたが、部屋はもぬけの殻だった。
潔癖なマイケルらしい、シンプルな部屋は整然と整えられて髪の毛一本落ちていない。マイケルが潔癖なのは、侵入者が訪れば一目瞭然にする為だ。
「マイケルさーん!」
「マイケル!」
二人は声をあげる。
寝室にもリビングにもマイケルの姿はなく、深田は書斎に入った。
書棚には幾つものファイルが並んでいた。深田の書棚と違って本は一冊もない。マイケルは本を読まない。本を読まないのに、誰から何を聞かれても殆ど全ての質問に応えることができる。
「なんだよ、このファイル」
本も読まない書類も作らないマイケルがファイルなんて、と思って深田は好奇心でファイルを開いた。
ペラリとカイザーエレクトロニクス社の社長から陳水扁に当てられた手紙が出てきた。
『親愛なる陳水扁総統。ジョイントストライクファイター(統合打撃戦闘機)の開発を米国政府から受けて以来、私達は中国スパイや台湾マフィアからの執拗な攻撃にさらされ、特に王源慈氏の会社は危険な状態にあります。総統におかれましては、台湾国内における王氏の活動をサポートして頂きたく存じ上げます。
カイザーエレクトロニクス社、社長より』
「なんだ…これ…」
カイザーエレクトロニクス社といえば、ロッキードマーティン社の下請けでマイケルと共同で開発を行なっていた会社だ。
その会社の社長がわざわざ台湾総統に手紙を書くってどういうことだ。そして、何故その手紙の写しがここにあるんだ。
http://www.prnewswire.com/news-releases/elbit-systems-and-kaiser-electronics-selected-for-lockheed-martin-joint-strike-fighter-73910952.html
深田は不安に駆られてファイルのページを捲る。そこにはFBI被害者保護プログラムの証明書とステイトメントと書かれた書類が挟まっていた。
『-ステイトメント- 私、王源慈は、FBI被害者保護プログラムにより、氏名をマイケル・コーに変更し、米国市民になることをここに宣誓します。マイケル・コー』
ミミズがのたうったような汚いサインは紛れもなくマイケルの字だ。
「カイザーエレクトロニクスの社長から、陳水扁総統への手紙、FBI被害者保護プログラム、アイデンティティー変更の宣誓書、マイケルの妄想みたいな話はもしかして本当なの…」
深田は更にページを捲った。
旧漢字だらけの書類に台湾検察と冠されたものが見られた。深田が習った中国語は文化大革命後の簡体字で、香港・台湾で利用されている複雑字を読むことは難しいが、いくつかの漢字は日本と共通だ。
『告発者、焦祐鈞』名前に見覚えがあった。告発者は、刑事告発を行なった人間のことだが台湾語でも同じ意味だろう。
「この名前は…」
間違いなく、青幇元首領焦庭標の息子だ。
マイケルがジョイントストライクファイターの設計を行なっていた時に馬英九と組んでその設計を盗んだ張本人。
「いやいや、同姓同名かもしれないし…」
スマホで焦の名前を検索すると、百度の辞典に彼の名前が出てきた。
『焦祐鈞 台湾電電公会理事長、華邦電子社長』
華邦電子、英名Winbondと言えば、台湾最大のチップメーカーだ。そこの社長が、マイケルを刑事告発している。
http://wapbaike.baidu.com/view/3507741.htm?adapt=1&
告発状の次のページには、台湾検察の書類が挟まっていた。
『王源慈  逃亡犯』
マイケルが台湾から米国へ亡命した直後の日付で、台湾検察から逃亡犯と名指しされた書類が出てきた。
「マイケル、政治思想の違いで亡命しただけじゃないのか…?」
よりによって、告発者がWINBONDの社長だなんて、そんなバカな。
深田は血の気が引くのを感じた。
金融の世界では信用が命だ。
深田萌絵の名前で、株主から出資を受けてこの会社を立ち上げた。この会社の為に三年半で費した資金は、既に億を超えた。
その企業価値の核となる技術を開発している人間が台湾で犯罪者で逃亡犯、その名はFBIの書類でマイケルの過去の名前であることが証明されている。
「萌絵さん、やっぱりマイケルさんの行き先の手掛かり無いですね」
エリがドアの向こうから声を掛ける。
「萌絵さん?」
深田はエリに応えることができなかった。
仮に、マイケルが本当に犯罪者ならば、自分の立場は共謀犯だ。軽い罪なら台湾調査局が日本まで彼を追ってくるはずか無いし、台湾最大のチップメーカーの社長が告発するはずもない。
まずい。マイケルの技術が日本を救える技術だと信じ、その開発の為に自分の資産だけでなく、他人資本まで入れてしまったので深田の責任は重い。それだけでなく、数少ない女友達のエリまで巻き込んでいる。
「萌絵さん?」
彼女の声が響く。
「エリちゃん…」
「どうかしたんですか」
キョトンと大きな瞳でこちらを見つめるエリに深田は応えることができなかった。
もしかしたら、自分は取り返しの付かないことをしてしまったかもしれない。エリに話せば彼女にまで責任が発生する。
「エリちゃん、とりあえずオフィスに戻ろう」
深田は、眩暈がする思いで几帳面に整理された部屋を後にした。
続く

2015年11月26日木曜日

【場外戦】2昨日の裁判官の質問



ストレスで顔のパーツがおかしくなったので、エステで調整中。
昨日、証人尋問で裁判官から質問がありました。
「創立の経緯を教えてください」
でした。
私の答えは、
「2011年3月11日に原発事故があり、発電所内のカメラのチップが放射線で壊れて動かなくなりました。それを解決する為に、以前から知っていたマイケル(仮名)の技術を使えば、耐放射線チップで遠隔で発電所内を監視できるカメラを作ることができると思ったからです」(ホントはもっとシドロモドロだったと思う´д` ;けど、言いたい事はこんなこと)
なんで。こんな変な会社始めちゃったのかな。
それはみんなが思う疑問だよね。
2011年、バークレイズを辞めて2年ほど、FXやったりしてた。バークレイズの時は投資銀行部門だったので、辞めてから1年間は疑われない為に株からわざと離れてた。
でも、原発事故が多くの人の運命を変えたし、私の運命も変えたのだと思う。
原発内部の様子が分からないということが、最大の課題だと思ったよ。
その時、ふっと脳裏に浮上したのが、変なチップの開発者。彼が米軍向けに耐放射線チップを設計していたこと、動画をリアルタイムで無線伝送する技術を持っていることを思い出した。
そうだ、リアルタイムに原発内部と津波を監視するシステムがあれば、最悪の事態は避けられるかもしれない、そう思った。
それで、マイケルに連絡した。
知り合ってから、半年ほど経ってのことだ。
最初、マイケルに一緒に会社やろうと誘って断られた。
当時は国内中堅商社とマイケルはジョイントベンチャーを経営してたからだ。
でも、粘った。
給料無しで仕事した。
中堅商社の人より多くの資料を翻訳し、英語苦手だが通訳もした。
数ヶ月して、マイケルはようやく私と会社を一緒に始めることにした。
原発事故や地震被害で、自分に何ができるだろう?そう思った人はたくさんいるし、いたと思う。
自分に何ができるんだろう?
そう思ったところから始めたのがこの会社。
だったかな。

第15回戦 マイケル逮捕命令

「深田様、警備の者です」
マンションの警備員が深田の部屋の扉の向こうから声を掛けた。
結局、深田はインターホンに応答せずに、不審者が居ると警備員を呼んだのだ。
「どうでしたか?」
「男性は、深田様に書類を届けに来ただけだと仰って帰られました」
「帰った。その書類は受け取られましたか」 
「いえ、そのままお帰りになりました」 
 「書類を持ってきて、書類を預けずに帰ったの?」 
深田が確認すると警備員はこくりと頷いた。
ますますおかしい。通常なら、警備員かレセプションに荷物を預けるはずだ。
「念のため、カメラの映像を保管しておいてもらえます?」
「警察での被害届けが必要なので、一週間以内にご提出頂ければご用意できます」
警備員はそう言って戻っていった。
深田はスマホを手に取り、マイケルに事態を伝えようとするが繋がらない。
「こんな大事な時に!」
深田はもう知らないと、スマホを投げ出してソファにうつぶせた。
ジリリリン、ジリリリン
黒電話の呼び出し音に設定したスマホが鳴り出して目が醒める。知らずにウトウトしていた。
マイケルか…?と思って電話に出ると「ハロー、ニーハオ!マイケルいますか?」と女性の声がした。マイケルの元秘書のジュディだ。彼女はいま、台湾にあるマイケルの家の近くに住んでいる。
「ジュディ、マイケルは昼から連絡が取れないんだけどどうしたの?」
「いま、台北警察が来て、マイケルを逮捕したから通知書にサインしてくださいと言われて…」
ジュディは今にも消え入りそうな声を出した。
「はぁ?罪状は何?」 
「罪状は10年前と同じ。白紙の逮捕状」
「ジュディ、それ、証拠に使えるからサインせずに写真に撮ってこっちに送って」
そう言って電話を切った数分後に、またジュディから電話がかかってきた。
「シェンティエン(深田)!」
「写真は撮れた?」
「それが変なの。警察に電話がかかってきて、ちょっと話した後に『マイケル逮捕は間違いでした』って言って帰っていったの」
「写真撮った?」
「警察も見切り発車がヤバいと思ったみたいで逮捕状を慌ててクシャクシャに丸めて逃げてった」
「もう、なんだったの?」
「警察官は近所の人だったんだけど、マイケルが台湾に着く深夜まで待つように台湾調査局に言われたけど、残業するのがイヤで早めに来たんだって」
「マイケルは?」
「捕まってなかったみたい。安心したら眠くなりました。おやすみなさーい」
「あ、ちょっとジュディ。待って…」
そう言ってジュディの電話はプツリと切れた。
突然いなくなる亡命中のマイケル。
突然現れて捜査する日本国内捜査権の無い台湾調査局。
残業がイヤで手抜き仕事でジュディを訪問した台湾警察。
気が済めば、勝手に電話を切る元秘書のジュディ。
「台湾人、マイペース過ぎる…」
いったい何なんだよ、と深田はクッションに顔を埋めた。
亡命してるヤツもなんだが、スパイも警察も適当過ぎる。
台湾国民党 対 深田
深田の運命やいかに…
続く

2015年11月19日木曜日

第14回戦 マイケルを捕まえろ!



アルファアイティーシステム社長、藤井一良からの訴え、第一回期日が始まった。
法人取引だったのに、藤井は私とマイケルを個人で訴えてくるという卑怯な手段を取ってきていた。
「法人取引だろうが」
契約書を読み返しながら深田は裁判所へ向かう準備をしていたが、肝心のマイケルの姿がない。
「エリちゃん、マイケルまだだよね?」
「いま、マイケルさんと電話中です」
エリは受話器を深田に渡した。
「マイケル、遅刻するよ。どこにいるの?」
「弁護士が行くから俺は行かなくていいだろ?」
「だったら私も行かなくていいよね?」
裁判所なんて、できれば行きたくない。
「ダメだ。殆どの弁護士は顧客を敵側に売るから、裏取引されないようにお前は出席しろ。あと、傍聴席に注意しろ」
そう言って、電話はプツリと切れた。
深田はガチャンと受話器を置き、
「いざという時に逃げ出す上司どう思う?」
とエリを振り返ると、
「逃げない上司を見た事ありません」
と彼女は答えた。
タクシーで裁判所に向かうと、あまりの汚なさに驚いた。古ぼけたコンクリートの建物にリノリウムの床、ドラマで見る大理石にステンドグラスの建物とは大違いだ。
傍聴席には3人の男が既に座っていた。
一人は梶原利之、一人は部下の宮西弁護士、もう一人は見覚えの無い男だった。
小綺麗なグレーのスーツにシルバーのピンバッジをしていた。弁護士のピンバッジは金色の菊の御紋なので、見知らぬ紋章だ。
万年筆に虫眼鏡のモチーフは企業のロゴマークデザインにも見えない。日本の家紋の辞典でも見た事が無い形状だ。
『おかしいな…』
深田は美大の頃にロゴデザインの授業に潜ったり、紋章学の授業に潜ったりしていたが、ロゴでも家紋でも無い奇妙な気分に取り憑かれた。
「深田さん、アルファアイティーシステムは法廷へ入ってください」
鈴木書記官の声で深田は我にかえる。森川紀代弁護士は先に被告席に着席していた。
第一回口頭弁論は次回期日を決めるだけの簡便なもので、ドラマのように弁護士同士が激論を交わすこともなく拍子抜けした。(因みに裁判で弁護士が激論を交わすのを、未だかつて見た事は無い。恐らく書類文化の日本人がまともに討論できるなら、外交もうまくいっていたはずだ)
帰り道、タクシーを拾ってエリに電話した。彼女だけが心の支えだ。
「萌絵さん、どうでしたか?」
「いや、次回期日決めただけで、数分で終わった」
「変な人、来てませんでしたか?」
「変な人はいなかったけど、変なバッジの人はいたね」
「どんなバッジですか?」
「あとで絵にして送るよ。とりあえず、気疲れしたから帰って寝るわ。あとよろしく」
「お疲れ様でした」
電話を切った後、深田はサラサラと虫眼鏡と万年筆のバッジの絵を描いてエリとマイケルに送った。
自宅に戻り、ソファに横たわるとマイケルから電話が入った。
「万年筆と虫眼鏡は台湾調査局のバッジだ」
「台湾調査局?」
「そうだ。台湾の諜報機関。青幇の戴笠が設立した。馬英九はまだ俺を探している。藤井がコンタクトしたんだろう」
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/戴笠
「台湾調査局ってこんなバッジ?」
「表向きは違う、裏任務のバッジはそれだ。俺はしばらく東京には入らない」
そう言ってマイケルの電話は切れた。
「超自分勝手なヤツ…」
深田はスマホを置いて目を閉じた。
とにかく、疲れたのだ。
ピンポーン
とインターホンの音で目覚めた。
窓の外は真っ暗だ。時計を見ると既に六時。
ピンポーン
慌ててインターホンの画面を見ると、スーツ姿の男が茶封筒を持って立っている。
「え?誰だろう?」
深田はあまりインターホンに応答しない。変な勧誘だったら嫌だからだ。
ただ、男は宗教の勧誘にも、集金にも見えない。小綺麗なスーツ姿なのだ。
「あれ?」
スーツの胸元に見覚えのあるピンバッジが付いている。万年筆に虫眼鏡。
深田はサッと顔色を変えた。
マイケルを追っている台湾調査局?
なんだ、これ、
藤井一良は早稲田大学時代に偶然知り合っただけの友達じゃなかったのか。
ハーフチャイニーズだとは聞いていた。
その彼が、マイケルの設計を盗み、旧友を訴え、ファーウェイを使い、台湾調査局まで派遣してくるって、いったい何なんだ。
こっちは金も権力もない個人だ。
相手が国家だなんて冗談じゃない。
正気になれ、
猫パンチで戦車と闘ってるようなものだぞ、深田萌絵。
この勝負、絶対に勝ち目はない。
深田の運命やいかに…
続く

2015年11月18日水曜日

第12回戦 追記



軍事とロジスティクス。
日本の物流企業が解放軍のロジスティクスと手を組んでいたことには驚かされた。
たぶん、戦争になれば、日本国内にいる国防動員法でテロリスト活動をさせられる中国人に物資や武器を運ぶ活動をこの企業が担うことになると思われる。
(私は中国人が悪いと思っていない。共産党が国防動員法で在日中国人の家族を人質にできるので、彼らには選択の余地が無い)
ロジスティクス戦略は戦争の要だ。
物資、武器、お金が途切れれば、戦争では負ける。
アメリカはここの技術開発に莫大な投資をした。
それが情報ロジスティクス、インターネット。
物資調達における要、クレジットカードの開発だ。
銀レイカードを日本で普及させた某日本人は、その事を分かっていて、それを行なったと私に告げた。彼は、その目的までは私に告げずに姿を消した。

2015年11月16日月曜日

第12回戦 ファーウェイの逆襲



「なんだこの記事は!!」
誌面のコピーが机上に叩きつけられた。
ファーウェイのアイウェイが指名手配スパイだと書かれた記事を持って、取引先の部長がオフィスに押し掛けてきたのだ。
「いや…なんだと言われても…」
「うちの役員はファーウェイジャパンの社長と長年の付き合いなんだぞ。どうしてくれるんだ」
「そんなこと言われても…」
警察やらなんやらに相談しているうちに、何故だか記事が出回っていた。こっちだって理由を知りたいくらいだ。
「深田萌絵!株アイドル時代の人脈を駆使して、この記事を記者に書かせたんだろう」
ギロリと取引先の部長に睨まれ、深田は首を横に振る。本当に何も知らないので、答えようがない。
「ふかだぁ!どうしてくれるんだ!?」
「部長、冷静に考えてください。私にメディアを動かす力があったら、他人の為にその人脈使うよりも自分が有名になって稼ぐ為に使いますよね。フツーに考えて」
そう言うと、部長は「確かに」と黙り込んだ。
深田は作家になるのが夢で株アイドルになったが、株の記事以外に執筆依頼が来たことはない。無論、そんな深田にメディアを動かす力はあるわけもない。株アイドルと呼ばれていただけで芸能人ですら無い。
「だいたい、ファーウェイの悪口書かれても、御社は何の痛手も無いのに何で怒ってるんですか?」
「深田!お前は外資の人間だから、日本の商取引文化分かってないんだよ!」
そう言って、取引先の部長は帰っていったのだが、なんで怒られたのかサッパリ分からなかった。
「まーったく、なんで私が怒られるのよ!」
深田はブツブツ文句を言った。
「萌絵さん、大変です」
「エリちゃん、今度は何よ」
「このニュース見てください」
と指差された記事を読んでみると、アイウェイが指名手配だというニュースを読んでファーウェイに問い合わせてみたという記事が流れていた。
「なになに、『米国でスパイ認定された社員がいるのか事実確認をすると、「個別の従業員に関するお問合せはプライバシーもあり、回答は差し控えさせて頂きます」とのこと』って、そこ『スパイという事実はありません』って否定するべきとこじゃないの?」
「なんでしょう。普通は否定する気がします」
「無実だったらね」
深田とエリは、またもやパソコンの前で顔を見合わせた。
後日、その取引先は解放軍ロジスティクス保利集団と提携していたことが発覚した。いやはや、日本人は金に弱い。
深田の運命やいかに…
続く

2015年11月13日金曜日

第11回戦 追記




第11回戦 追記
マイケルが一番ナゾ過ぎるというツッコミ。
ごもっともです。
台湾生まれ。知能指数200で5歳の頃にアメリカの研究所に送られそうになったことから彼の奇妙な人生は始まる。
6歳でアメリカ人のエンジニアに設計を教えて欲しいと聞かれ、10歳で論文を書く。
子供の頃から偏屈な論理派で、戒厳令下の台湾で蒋介石は神様では無いと近隣住民に教えを説いて、近隣一体はアンチ蒋介石になった。
やり過ぎて、11歳で一週間投獄されて、一日中蒋介石万歳音頭を唱えさせられた。
普通はそれで、洗脳されるのだが、余計に国民党が嫌いになる。
学生時代に立体音響の特許を取り、日本の企業にライセンスしたお金でアメリカの大学院に入る。
それ以来、彼は日本と日本人が大好きだ。
日本人は、マナーが良い、清潔、ハートが美しい、金払いもいいと彼にとって最高の場所のようだ。
サラリーマン3年目で、テキサスインスツルメンツの役員に30万ドルの投資を貰って起業。そこから米軍の開発に招かれるようになり、台湾で株式を公開した。
性格はかなり宇宙人だ。
ある大企業の社長に「どうして、こんなスペックの設計ができるんですか?」と聞かれて、「それは貴方のエンジニアが頭悪くて、俺が天才だからだ」と答えた。
もちろん、商談は白紙。
ある日、大企業の社長の秘書が「マイケルさんはいつも美人の社員を連れてますね」とお世辞を言うとキョロキョロして、「え?美人?俺は美人なんて連れてたことは無い、君の美しさが足りないからだ」と答えた。
無論、商談は破談だ。
みんなマイケルの才能に惚れ込むが、宇宙人過ぎる性格に辟易している。
因みに、私もマイケルにはホトホト困らされているが、戦いが始まってしまったので勝つまでやるしかない。
始まってしまったものは仕方ないのだ。

第10回戦 追記

第10回戦 追記
深田の精神状態なんてどうでもいい話だけど、訴訟が始まり、銀行口座を名義違いで差し押さえられ、中国スパイに付きまとわれ始めた頃はワケが分からなくて、かなり精神的に弱っていた。
2013年の年末、半分ウツ状態で大阪の実家に帰り、2014年の初詣に母と出掛けた時に、神社で厄除けが五百円で売ってるのが見えて思わず手を伸ばしたら母にその手を掴まれた。
「萌絵ちゃん、あんた、もしかして、厄が怖いとか言うんと違うやろな?」
母が目を合わせて来た。
どうしよう、さすがに母さんにスパイ事件やら訴訟事件の相談はし辛い。
「あ、いや、別にそういうワケでは無いんですけど…」
「あんた、初詣のお参りって言うのはな、こうやるんや!」
母はお賽銭箱に小銭を投げて、パンパンッと柏手を叩き、
「厄よ!来るなら来い!受けて立つ!」
と叫んだ。
母はドヤ顔で振り返り、この雰囲気では日々押し寄せてくる厄に対して挑戦状を叩きつけるまでは家に帰れない雰囲気になった。
止むを得ず、深田は厄除けを棚に戻して、柏手を打ち、
「厄よ!来るなら来い!受けて立つ!」
と新年神に挑戦してしまった。
後日詳しく書くが、結論から言うと、そこからいっそう酷い目に遭った。
ボロボロになった私を見て、母は、「今日はこの程度で済んで良かったと神様に感謝しなさい。明日はもっと酷い目に遭うかもしれないんだからね。あんたみたいなデタラメな娘、私がご先祖様拝んでるからマグレで生き延びてるだけやから調子に乗るなよ」と慰めてくれた。
2015年の初詣、深田は柏手を打って「参りました。そろそろ勘弁してください」と祈るハメになったのだ。´д` ;

2015年11月11日水曜日

第9回戦 衛星ハッキング計画



「どうしてファーウェイがうちの研究先を全て知ってるんだろ」
「萌絵さん、アルファアイティーシステムの藤井社長はうちの共同研究先の資料紹介したし、W大の研究室にも一緒に行ってましたよ」
エリは資料をチェックしながら深田の独り言に答えた。藤井はファーウェイと関係があるのか、そんな疑問が湧き上がる。
「でも、どうして研究室なんだろう」
「うちが受けた政府研究計画の衛星実験だ」
マイケルがカフェラテを啜りながら深田を見た。
「単なる動画伝送実験にどうしてファーウェイが興味あるの?」
「衛星へのハッキングは解放軍最大のミッションだ。いいか次世代型の戦闘機は全て衛星による中央管制だ。中国が戦争を始める時の課題は衛星通信をいかに阻害するか。衛星を直接攻撃するか、衛星をハッキングするか2つに一つ」
確かに、中国はここ数年ほど衛星攻撃兵器ASATの開発に躍起で、米国政府からの批判を浴びている。
http://www.jiji.com/sp/zc?g&k=201511%2F2015111000122&pa=
「衛星にハッキングなんてできるの?」
「いいか、今回の衛星実験は普通の衛星通信ではない。普通の衛星通信ならデータリンクを利用するが、今回の衛星通信はコントロールリンクへのアクセスだ」
「でも、動画を伝送するだけなら危険はないはず」
「単なる圧縮動画伝送実験ではない。政府研究所のエンジニアが動画処理に必要なアルゴリズムを開発したと言ってただろ?」
「あのイラン人の?そう言えば、プログラム貰って無いよね」
深田はハッとする。イラン人は動画処理のプログラムもチップに埋め込みたいので提供すると言ってたのにいっこうに出して来ないのだ。
「それと、政府研究所の人間が食堂でボヤいてただろ?情報収集衛星研究室に北朝鮮人が採用されたって」
確かに、日本の政府研究所の衛星関連の研究室に悪の枢軸国から来たエンジニアが出入りしている事態はヤバい気もする。
衛星の管理は総務省の管轄だが、日本の衛星利用は米国政府とシェアされている。ということは、アメリカの次世代型戦闘機が日本の領域を通る時には日本の衛星を利用する。
「中国は日本に攻める時に、アメリカの干渉を防ぐ為に衛星を狙ってるってことなのね?」
「確認の為に政府研究所に行こう」
そう言って、マイケルと深田は政府研究所に向かった。
研究所ではいつも通りイラン人が白い歯を見せて出迎えてくれた。
「実は、中国スパイ企業ファーウェイが現れて今回の衛星実験を狙ってるんです。早く理事長に知らせた方がいいのでは無いでしょうか」
深田は単刀直入に聞いた。
「ス、スパイ?ハーッハッハ!深田さん、映画の見過ぎじゃないですか?世界大戦は終わって世界は平和なんですよ。それにファーウェイはいい会社です。開発が間に合わないから言い訳言ってるんでしょ、もっとマシな言い訳考えてよ」
イラン人は腹を抱えて笑った。
深田は何となく恥ずかしくなった。妄想だと言われたら、確かにその通りなのだ。
「ところで、ミスターイラン。チップに組み込みたいと仰ってたアルゴリズムはいつ貰えるんですか。そろそろ出して貰わないと開発が遅れます」
「そんなのいつでも出せますよ」
「それは良かった。開発に間に合いそうで安心しました。実はこのスパイ事件をFBIに報告しようと思っていたんですが、協力は頂けないんですね」
「協力するまでも無い。スパイなんていませんからね」
最後、イラン人は怒り気味に答えた。
帰りの新幹線、深田はマイケルに尋ねた。
「言われてみれば、スパイとか気のせいかもね」
マイケルはカフェラテを一口飲んで、「さぁ、それはどうかな」と答えた。
東京駅では、エリが待っていた。
「ハイ、マイケル。言われた通り大学に訪問したファーウェイ社員の名刺を貰いました」
「よし、これからFBIに行くか」
「ハァ?FBI?ここ、日本だよ」
深田が目を丸くすると、マイケルはニヤニヤ笑ってタクシーに乗りこんだ。
深田萌絵の運命やいかに…
続く
後日談だが、一カ月ほどしてイラン人は研究所から突然姿を消した。謎のプログラムと共に。
第9回戦追記
衛星実験に関わっていた企業に衛星ハッキングの危険性について話すと、その役員が総務省の上層部に相談に行った。
総務省の回答は、実験用に使われる衛星『きずな』は二年で引退予定なので、ハッキングされても大した痛手は無いとのことだったと伝えられた。
総務省に事の重大さが伝わらなかったため私たちは外事警察に危険性を訴えた。後に、事件はどこかから漏れたのか報道され、政府研究所は実験に利用する回線を衛星から専用回線に差し替えた。
あるジャーナリストから、内調に事件を報告し、外事警察は本件を監視していると連絡を受けて胸を撫で下ろした。
そこから暫くして、日本という国は一枚岩でなく、正義は脆くも内部から崩れ去ることを知る。

2015年11月10日火曜日

第8回戦 中国スパイ企業、現れる!

【中国スパイ事件サマリー】
「解放軍、中国国安工作員に朝鮮系工作員か…うちみたいな数人しかいない会社によくもこれだけ出揃ったもんだ」
「いや、まだ登場してないビッグプレイヤーがいる」 
マイケルは深田のため息を気にもせずにあっけらかんと答えた。
「スパイのビッグプレイヤー?」
「そう、ファーウェイだ。海外での中国の諜報活動には殆どファーウェイが絡んでる。CIA長官がキレたくらいだ」
そう言ってマイケルはニュースを見せた。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2013/12/post-3138_1.php
「そんな、大企業がうちみたいな弱小企業に付き纏うかな。エリちゃん、共同研究先に全部電話してファーウェイ来てないか問い合わせてくれる?」
「はい。分かりました」
深田はエリに声を掛けた。この会社を始める時から手伝ってくれているスレンダー美女だ。
ファーウェイ、中国名は華為。企業であって企業ではない。共産党直属企業なので、解放軍や国家よりも上位に属する。
中国は、中国共産党>人民解放軍>政府 という構造になっているので、通常の企業は法律の下位だがファーウェイは中国の法律よりも上位だということだ。
毛沢東は軍事力を強化する為に中国科学院を創立したが、鄧小平は工作活動を強化する道を選んだ。
それらは鄧小平が好んだ言葉、「巨大中華龍唐興為」を組み合わせて、巨龍、大唐、中興、華為の名前を冠した四社を共産党直属の諜報機能を兼ね備えた企業として創立した。
巨龍、大唐は倒産し、通信モジュールを取り扱った中興と華為は時代のトレンドに乗って成長を成し遂げた。
「ファーウェイは共産党配下だが、日本に来るのはファーウェイグローバルから派遣された台湾人。青幇の構成員だ」
マイケルが続ける。
「えぇ?共産党スパイの中身が台湾人なの?」
「本物台湾人ではない。青幇だと言っただろう。青幇は数百年の歴史がある暴力団で清王朝ですら討伐できなかった強力な暴力団だ」
「青幇は日本が上海占領の時に協力したんじゃないの?」
「戦時の青幇は、日本軍を助け、国民党軍を助け、共産党軍を助けた。三つの政府が戦えば、武器と敵軍情報の密売で、商売繁盛だからな」
「青幇は戦後途絶えたんじゃなかった?」
「青幇は戦後、共産党からの逆襲に遭って壊滅寸前まで追い込まれたが、蒋介石と組んで台湾占領に協力したんだ。残党は台湾で蘇り、国民党となった」
「青幇が何故今さら共産党に協力を?」
「儲かるからだ。青幇ビジネスは兵器売買と諜報活動だ。中国共産党は中国人を日本で諜報活動に当たらせる時に、中国人の立ち居振る舞いが悪過ぎて日本社会で警戒されることに気がついた。だから、中国大陸の血が濃くて日本文化の影響が強い台湾青幇を選んだということさ」
確かに中国人に日本人のフリは難しい。
「萌絵さん、大変です」 
受話器を置いたエリが蒼ざめる。
「何?」
「共同研究先のN大三次元映像研究室にも、W大通信研究室にも、O大光学研究室にも全て弊社が訪問した一週間後にファーウェイが突然現れたそうです」
「ぬ、ぬ、ぬなっ!?」
「しかも、研究室に多額の寄付を積んだそうで、弊社との共同研究は白紙にしたいと」
「ヤラれたか…」
まさか、共同研究を始めようとしていた全ての研究室にファーウェイが現れていたとは。
深田萌絵の運命やいかに!?
続く

2015年11月9日月曜日

第7回戦 マイケルの技術

あれは5年前だ。
マイケルとの出会い。
福島原発事故、津波被害が遭ったというのに、日本の技術が遅れている為に高解像度動画はリアルタイムに送れないので事故の様子を知ることすらできないと知った。
更に、事故後の原発内部は高放射線下にあるので、放射線が電子にぶつかれば半導体チップがエラーを起こしてしまう。
そこで思い出したのが、マイケルだ。半導体大手Intelの元社長に紹介された天才エンジニア。彼は、耐放射線チップ設計を開発したので米軍に採用された。
原発事故の後、深田はすぐにマイケルに電話して投資の約束をした。それが全ての始まり。
マイケル・コー。この名前は、FBI被害者保護プログラムでFBIから与えられた名前で本当の名前ではない。
マイケルの会社は耐放射線チップ設計技術で台湾で株式公開を果たし、セルコンピューターと略式で呼ばれた技術の名前は一瞬世界に広まった。
直後、彼の台湾オフィスは中国スパイに襲撃され、馬英九によってマイケルは投獄された。獄中で暗殺されそうなところ、現台湾立法院長王金平に助けられて米国へ亡命。FBIの保護下に入ったのだ。
「だいたい、何故オフィスを襲撃されたの?」
「だからJSFさ。統合打撃型戦闘機の開発」
「マイケルのチップ設計が飛行機となんか関係ある?」
「いまや兵器は殆どチップ制御だ。俺は、無人機用のリアルタイム動画伝送システム設計と放射線や電磁パルス攻撃を受けても壊れないコンピューターの設計に携わっていた。中共はそれを台湾経由で盗んだミラージュの設計に足せば、自家製無人戦闘機の出来上がりだと踏んだのさ」
「それ、オーマイガー!な事態なんじゃないの!?」
「馬英九は今でも俺を抹殺したい。中国国民党の実態は上海黄金時代に栄えた暴力団青幇(チンパン)。青幇の資金源は諜報活動による情報と兵器売買だ。国民党は、フランス製のラファイエット級フリゲート艦の技術、戦闘機ミラージュ2000の技術を中国共産党に売って稼いできた。その極みで、馬英九は俺が開発したJSF用のチップ設計を中共に売った金で国民党序列5位から1位になり、総統選に勝ったんだ」
「兵器技術の密売って国際条約違反で捕まらないの?」
「捕まるわけないだろ。証拠も証人も全て隠滅された。ラファイエットとミラージュの兵器技術転売にはフランスの政治家と中国共産党幹部が関わっていて、フランスの諜報員から台湾の軍人まで国際裁判の証人14人は殺された。そのうち一人は東京で暗殺されてる」
「JSFは裁判にならなかったの?」
「陳水扁元総統が台湾国内でも国民党の軍事技術転売汚職事件の捜査を進めようとしていた」
「じゃあ、FBIの捜査にも協力してくれたのね」
「ところがだ、馬英九が検察を使って陳水扁を汚職で投獄させたその日、FBIの捜査は打ち切られて事件を知る者は全員口を封じられたという結末さ」
「オーマイガー!じゃあ、今、うちに厭がらせに来てるのは…」
「台湾青幇グループ、中国解放軍と国安工作員、中国工作員化した朝鮮系と国防動員法で絡め取られた中国に所在する日本の中小企業だな」
ゲゲゲ、もしかしたら、とんでもないのに投資してしまったのか。
JSF技術取得は中国最大のターゲットだ。
http://aviation-space-business.blogspot.jp/2012/02/f-35.html?m=1
続く

2015年11月8日日曜日

第6回戦



第6回戦 中国国家安全部の戦略
【スパイ事件サマリー】
「裁判所が工作員だらけなんて、聞いたことある?」 
深田はため息吐いた。弁護士が極左、弁護士会は基本左、裁判官書記官が工作員なら、どう考えてもこっちに勝ち目はない。
自衛隊の夜間飛行が差し止めたり、国民の土地を暴力団に差し押さえさせたり、最近の裁判所は迷走しまくっている事態を国は放置している。放置国家と呼ばれる所以だ。
「深田、裁判所だけじゃないぞ。警察、検察もかなりの数の工作員がいる」
マイケルはそう応えた。
「なんで分かるの?」
「米軍の仕事をしていた頃、米政府からの要請で江沢民の息子が管轄する中国科学院の顧問になった。それで、年に数回ほど中国で共産党幹部に講演なんかをしていたんだ」
「その時、中国科学院に国家安全部のトップを紹介された」
国家安全部は中国共産党直属の諜報機関で、海外での工作はここで計画が練られる。
「そのトップが俺に語ったのは、中国国家安全部の計画で、中国人を日本に帰化させて警察、検察、弁護士、裁判所をコントロールするという壮大な計画だ。90年代に始まったその計画で、既に数万人を日本に送り込んだと自慢していた」
「それいつ?」
「ドットコムバブルの頃で、まだ俺が金持ちだった時かな」
2000年の時点で数万人が送り込まれているなら、裁判所に工作員がうじゃうじゃいても不思議ではない。
「でも、警察まで食い込めるかな?一応バックグラウンドチェックがあるから難しいんじゃない」
「朝鮮総連ビル事件で、元公安警察長官が関わってるじゃないか。日本もクリーンではないな」
確かに、言えてる。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/朝鮮総連本部ビル売却問題
「でも、これは朝鮮系の話だし」
「何言ってるんだ。韓国の諜報機関は中国に協力してるだろ。LINEのサーバーは中国にあるんだぞ」
「まさか、中国、韓国、北朝鮮の夢のコラボレーション…」
確かに、日本で電子基板を作ろうとしても散々破壊工作に遭ってきたのだが、不況に喘いだ電子基板産業は殆どパチンコ業界に牛耳られている事態だ。
その電子基板企業が悉く中国共産党に協力してるのも謎だったが、そもそも協力関係にあるなら何の不思議もない。
「深田、中国工作員は面倒臭いぞ。金もあるし、送り込んでくる人員も何万人と用意できるからな」
「ヤダァ!そもそも何でそんなのに狙われてるの?」
マイケルは、「それは、俺がJSF計画に関わった天才だからさ」と応えて笑った。
深田萌絵の運命やいかに…
続く

2015年11月3日火曜日

第五回戦 梶原利之と裁判官癒着の謎



【中国スパイ事件サマリー】
裁判構成↓
保全事件 アルファアイティ → マイケル銀行口座差押 (前回の話。実際は深田名義の口座)
異議申立 深田会社 → アルファアイティ  (今回)
本訴   アルファアイティ → 深田会社  (今回)
逆訴訟  深田会社 → アルファアイティ (詳細は別途)
別訴   マイケル&エリ → 藤井一良(詳細は別途)
国賠   深田会社 → 国&遠田真嗣  (今回)
いわゆる泥沼。
三菱東京UFJ銀行新宿中央支店の支店長田中靖士が引き出した私のお金を取り戻すべく、差押異議申し立てを行った。
代理人は森川紀代弁護士。
【保全事件敗戦】
異議申し立ては法廷では無くて民事九部にある審尋用の小さな部屋で行われるのだが、この森川弁
護士が裁判官い対して何も言わずに黙って俯きなので、深田が自分で自己弁護する始末に。
「裁判官、この証拠見てください!」
そう言って、棚橋知子裁判官の眼前に証拠を指し出したら、棚橋はおもむろに顔をそむけて「貴女の証拠は見ません!」と言った。
チラと見ると、書記官戸谷多恵は中国語でメモを取っている。
『ヤバい・・・、この裁判、なんかヤバいぞ・・・」
深田は、嫌な予感がした。
初めての裁判所だが、直感的に異常な雰囲気が流れてるのが分かった。
棚橋は最後まで梶原弁護士にヘイコラして去り、梶原はボサボサに伸びた髪の間から勝ち誇った瞳を見せ、「おい、深田。ちゃんと書類くらい確認しろ!」と悪態をついて出ていった。
【本訴敗戦濃厚】
民事48部で開かれている本訴も同様だ。
深田が遠田真嗣裁判官に証拠提出を申し出ると、
「深田さん、証拠はこれ以上出さなくていいです!」
と遠田は言うので、
「なぜですか?」
「証拠を出すと不利になるから出さないほうがいい!」
と遠田は深田の証拠提出を頑なに拒んだ。
もしや、と、思い訴訟記録を取り寄せると、やはり、提出したはずの上申書が記録から抹消されている。期日が始まる前に記録閲覧を申し出た時も、鈴木鉄治書記官が記録を破り取ったことを思い出した。
『ヤバい。どんなにアルファアイティーが悪いという証拠を出しても、裁判官と書記官に握りつぶされている』
その日から、裁判所に提出する書類は二部用意して割り印した上で受領印をもらうようにしてから上申書の消失事件は収まった。裁判所を信用してはならないのだ。
ある日、某情報筋からアルファアイティーシステムがうちに10億円の請求をしようとしているという連絡が深田に入った。遠田真嗣は中共から派遣された工作員で10億円の損害賠償の判決準備をしているとの話だ。
「もう、我慢ならん。国家損害賠償請求で、遠田を成敗する!」
深田は、国家賠償法に基づいて「遠田さんが1000万円の訴訟で、10億円の損害賠償請求を認めようとしている」と国に賠償請求を求める訴状を提出した一時間後にある電話が入った。
「深田さん、10億円ってなんで知ってるの?」
中国で知り合った中国共産党員から突然連絡が入った。
「え、10億円?」
「だから、裁判官が10億円の判決出そうとしてるって国賠起こしたでしょ、誰に聞いたの?」
「なんで知ってるんだよ!」
そう言って深田は国際電話を切った。
『三時間ほど前に提出した訴状の内容を、何故中国にいる中国共産党員が知ってるんだ?』
すぐに深田は東京地裁に電話して「国賠の書記官お願いします!」と頼むと、「あ、すみません。深田さんの訴状、まだ受付にあってこの部署に届いてないから週明けにしてもらえます?」と担当書記官は応えた。
ヤバい。
訴訟受付から部署にすら届いていない訴状が、既に中共幹部の手元には届いている。
東京地方裁判所の書類は殆ど紙媒体なので、ネット経由でハッキングしても訴状の内容までは読み取れない。
ということは、東京地裁の内部にリアル工作員がうじゃうじゃいるってことか!
そういえば、週刊現代ではおかしな裁判官特集が売れてるらしい。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39467?page=7
「マイケル、ヤバい」
「なんだ?」
マイケルは設計中か、面倒臭そうに深田を振り返る。
「東京地裁は中共スパイがかなり紛れ込んでる」
「なんだ、深田。そんなの見分けるの簡単だ」
「え?どうやるの?」
「針で刺して『イタッ』と言ったら日本人、『アイヤッ』と言えば中国人だ」
深田は、マイケルの腕にボールペンをプスっと指すとマイケルは「アイヤ」と言って痛がった。
因みにマイケルは元台湾人だ。
社民党党首と組んだ弁護士に中共スパイ裁判官か。
しかも、うじゃうじゃいる。
ヤバいぞ、深田。
深田の運命やいかに・・・
続く

第四回戦 アルファアイティーシステム三重構造

銀行の支店長を言いなりにさせ、福島瑞穂とマイク・ホンダを操るこの(株)アルファアイティーシステムってなんなのだ!?
深田は元アナリストの血が騒いだ。この会社、分析してやる!!
「バイトさん!法務局いってきて!」
アルファアイティーシステムの登記簿謄本と帝国データバンクの情報を取り寄せ、また衝撃の事実が分かった。
「深田さんのおかげで二億円も売上が上がっちゃって、ありがとう!」
と藤井社長が私にお礼を言ったにもかかわらず、帝国データバンクではアルファアイティーシステムは年商一億円、利益三百万円程度と売上も利益も全く変わらず推移している。
「なんだ?二億円増えていない。売上隠しか・・・」
だったら、どこに隠してる?
と、謄本を捲るとアルファアイティーシステムの謄本が二枚出てきた。バイトさん、また重複し
て同じ資料とってきたな。ゆとり世代め。
「おい、こけしちゃん。印紙代勿体ないから同じ謄本二つとらなくていいよ」
深田がこけしヘアのアルバイトに声を掛けると、
「萌絵さん、その二つは違うアルファアイティーシステムです!」
とふてくされた。
「はあ?」
手元の謄本をよく見た。そうだ、一部は日本法人、もう一部は米国法人の日本支店となっている。
「米国デラウェア州ニューアーク市バークスデイル・プロフェッショナル・センター113番、アルファアイティーシステム」
しかも、登記日を見ると日本法人設立の一年前、彼が18歳の時の会社だ。
藤井は中国語は堪能だが英語は下手だ。その彼が18歳で米国法人設立?
深田は頭を掻きむしる。
ふと、メールボックスを見るとファンレターボックスに一通のメールが届いていた。
「深田萌絵様 お困りのようですね。アルファアイティーシステム中国法人を発見しました。http://www.alpha-it.cn です。中より」
「中さんって、誰なんだろ?」
という疑問を抱きながら、URLをクリックすると、アルファアイティーシステム中国法人のウェブサイトが出てきた。
そこには、藤井の写真と百名近い社員の写真が掲載されている。成功事例としての売上は日本法人の仕事しか掲載されていない。
「年収一億の会社が100人のエンジニア抱えている?どう考えても人件費だけで5億円はかかるだろう。オフィスの家賃だってバカにならない」
住所は南昌高新開発区。
南昌といえば、解放軍の第二ミサイル部隊、大陸間弾道ミサイルを開発して1000基の核弾頭搭載ミサイルを日本に向けている場所だ。
そこに高新開発区といえば、中国共産党のお墨付きが無いとオフィスを構えられない地域。
藤井一良って、単なる同級生じゃなかったのか?
そうだ、彼は理工学部、私は政経、本当なら出会わなかった二人が出会ったのは、金融工学の授業に彼が潜っていたからだ。
彼は、授業中、私の前夫が翻訳したトレード本を読んでいたから仲良くなった。
もしかして、その偶然の出会いから仕組まれていたということか!?
続く